CKD患者さんは肺炎球菌ワクチンを打つべき?―保存期から始める感染症対策

CKD

「まだ透析じゃないし、大丈夫です」
そんなふうに思っていませんか?

でも実は、慢性腎臓病(CKD)の段階から、感染症へのリスクはぐんと高まっています。
中でも注意が必要なのが、肺炎球菌による感染症。肺炎だけでなく、中耳炎、副鼻腔炎、さらには髄膜炎や敗血症といった重篤な合併症の原因にもなります。

今回は、なぜCKD患者さんに肺炎球菌ワクチン接種を推奨するのか、最新の学会の動きや研究データを交えて、わかりやすくお伝えします。


いま、学会横断的に始まっている大プロジェクト

現在、日本呼吸器学会・日本感染症学会が中心となり、CKDを含む慢性疾患のある方への肺炎球菌ワクチン接種を推進するプロジェクトが始動しています。

この背景にあるのが、肺炎球菌による侵襲性感染症(IPD)です。これは、血液や髄液など無菌環境に肺炎球菌が入り込む感染症で、命に関わることもあります

特にリスクが高いとされるのが、以下のような人たちです:

  • 高齢者(65歳以上)
  • 慢性疾患をもつ人(CKD、糖尿病、心疾患など)
  • 脾臓摘出歴がある人

なぜCKD患者は感染症に弱いのか?

CKDの方は免疫機能が低下しています。

  • B細胞・T細胞の働きが弱くなる
  • 好中球やマクロファージの機能障害
  • 糖尿病やネフローゼなど、免疫を下げる基礎疾患や治療薬の影響

その結果、肺炎などの感染症の発症リスクが高く、重症化もしやすいのです。

実際、CKD患者さんの肺炎による死亡率は15%にものぼり、一般の方(6%)に比べて非常に高いことが知られています。


データで見る「肺炎球菌ワクチン」の有効性

最新の研究で、以下のような効果が報告されています。

📌 保存期CKD患者において(Chronic Kidney Journal 2024, Vol.17, No.6)

  • 13価ワクチン(PCV13)は、肺炎による入院を40%減少
  • 23価ワクチン(PPSV23)だけでは効果が弱い
  • 20価ワクチン(PCV20)は、T細胞を介した免疫を引き出す強力なタイプ

📌 透析患者において(Ihara H, et al. Vaccine. 2019)

  • PPSV23やPCV13の接種で全死亡率を29%減少
  • 心血管イベントによる入院や死亡リスクを20%近く減少

つまり、肺炎だけでなく、心臓や血管の合併症予防にも効果があることがわかってきたのです。


ワクチンの種類と接種スケジュール

ワクチン名特徴推奨スケジュール
PPSV23(ニューモバックス)T細胞非依存型、効果はやや弱め初回接種後、5年以上あけて再接種
PCV13(プレベナー13)T細胞依存型、抗体価上昇が強いPPSV23の前または後に1回
PCV20(プレベナー20)最新、広範囲・T細胞依存・単回で完結1回のみで接種完了

現在は、PCV20の単回接種が推奨されつつあり、利便性・効果ともに優れています。
※PCV20は費用が1万円以上かかる場合があります(医療機関により異なる)


まとめ:保存期から備えることが、生きる力につながる

慢性腎臓病は、「症状がないから安心」ではありません。
むしろ、症状が出る前にできることをすることが、あなたの体を守ります。

  • 肺炎球菌感染症は、CKDの段階からリスクが高い
  • ワクチンは感染や重症化を予防できる手段
  • 最新のPCV20は単回接種で高い効果
  • 医師と相談し、今の自分に合ったワクチンを検討しましょう

感染症に強い体づくりは、CKDの進行を穏やかにし、生活の質を守る一歩です。


\ 医師からひとこと /

感染対策といえばマスクや手洗いを思い浮かべがちですが、「ワクチンで先に備える」という視点もとても大切です。
保存期のCKD患者さんにこそ、肺炎球菌ワクチン接種を強くおすすめします

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