堀川恵子著
「透析を止めた日」という書籍を読みましたので、感想を述べたいと思います
この本は筆者の膨大で詳細な記録が元となり、
透析患者であった夫の死と向き合った日々のドキュメンタリー作品です
あらすじ
多発性嚢胞腎で透析を開始した林(筆者の夫)が移植で一度は透析から解放され、NHKディレクターとして番組作成に奔走し充実した日々を送っていました。しかし、移植腎が徐々に廃絶してしまい、体は限界を迎え血液透析が再開されます。
その後肝嚢胞の影響で肝機能の低下とともに、全身状態が悪化をしていきます。血圧維持が困難になり透析自体も継続ができなくなっていく状況が描かれています。
林は最先端医療の力で救命をされるも、壮絶な闘病生活を筆者と続け、日に日に死期が迫っていく様子がリアルに描かれている作品です。
この記事を書いているyodoの紹介
私は、腎臓専門医、透析専門医として20年弱診療に当たっており、多くの透析患者さんの終末期にも関わった経験があります。この書籍から知っていただきたいと思う情報が多くありましたので紹介することにしました。
この書籍を読んで欲しい方
- 透析医療に携わる医療者
- 慢性腎臓病があり近い将来透析をしなければならない方
- 腎代替療法の選択で悩まれている方(特に腹膜透析をするか悩む方、移植ドナーになるか悩む方)
- 長年透析をしている方
この本から得られる内容とは何か
- 血液透析や腎移植のリアルな体験談
- 透析患者さんの終末期について
- 腹膜透析がどんな透析か
本記事でyodoが挙げるキーワード
- 腎移植
- 終末期透析
- 腹膜透析
それぞれについて感想や意見を述べていきます
1-1 |腎移植に関して
林は、母親から腎移植を受けてから透析から開放され、伸び伸びとまさに仕事に忙殺され没頭している姿が記録されています。
透析患者は夜間透析をしながら仕事をする人なども多いですが、彼の場合は早朝に透析をして、仕事への影響が出ないようにしていたそうです。
移植で透析から解放される喜び、やりたいことがやれる喜びは計り知れないと思いました。
日本は倫理的な問題などから、世界各国と比べて移植が進んでいないのが現状です。移植をすることで、どれだけ人のQOLを変えるのかを私自身実感できました。
「腎移植は人生を変える」と思いました。
1-2 |移植の現状について(補足)
移植には2種類あります
①生体腎移植→親族から腎臓をもらう
②献腎移植→亡くなった他人から腎臓をもらう
日本では①生体腎移植が8割を超えています
特に夫婦間の移植が多くなっている特徴があります
②献腎移植は移植希望の登録後、
移植可能となるのに15年を要すため
透析を継続しながら移植のタイミングを待つことになり厳しい現状です
1−3 |私の外来経験談
過去,ご家族がドナーとなり、晴れて生体腎移植が行えた方はもちろんいました。
しかし、ドナーになりたくても悪性腫瘍が見つかったり、血圧が高い、腎臓をもらう側に肥満があるなどの理由で手術できないと判断をされ、患者さんが透析になることはしばしば経験しています
移植を考えるなら、ドナーもレシピエントも何より体調(精神的肉体的にできる限りいい状態)を整えることが不可欠かと思います。
2-1 |終末期透析について
本書では痛みに耐えながら最期の入院先の病院で林さんは辛い透析を続けていました。透析を辞めたいと言うものの、主治医から否定をされます。それに対して彼は「自分の命は自分で決めたい」と言っています。
間違いなく、患者さんが決めるべき事だと思います。
私が思ったのは、医療者側と患者さんや家族とのコミュニケーション不足になっていたのではないかということです。移植専門の先生方なので、相当忙しいことを考えると、とてもゆっくり、透析をどうするかなど話せる状況ではなかったのかもしれないです。ここで透析専門医などが中に入れたらどれだけ違ったのかとも感じました。
現場にいた身ではないので批判はこれくらいにします。
2-2 |現在の終末期透析の考え方
書籍の林さんが亡くなられてから、福生病院で透析継続困難となった透析患者さんが亡くなり、その家族が病院に裁判となったニュースが世の中で話題になりました。(ニュース記事はこちらから)
それがきっかけで、日本透析医学会で透析中止や終末期の透析に関してルール作りが進みました
本に記載されている終末期の内容は過去の事例で、
現在はかなり変わってきています
現在の厚生労働省から提示されている終末期医療の考え方です👇
本人の尊厳を追求し,自分らしく最期まで生き,より良い最期を迎えるために人生の最終段階における医療とケアをすすめていくことが重要
厚生労働省の提言より抜粋
日本透析医学会より「透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言」というのが2020年に出されました。その内容を簡単にお話しします。
2-3 |透析見合わせを希望する場合の現状
書籍内では、透析を希望しない林さんに対して、病院側が抗生剤治療を中止したり、十分疼痛管理がされず苦しむ姿が描かれています。
現在の学会の提言とは離れた対応になっているので、注意してほしいでです。全ての病院で書籍に書かれている流れを辿るわけではないです!
<現在の学会の考え方>
- 透析をやめてから、どのようなケアをしていくか医療者と本人・家族と話し合う
- 緩和ケアを取り入れる
- 意思の変更があれば透析を再開できる
- セカンドオピニオンを活用できる
とされています
何より、本人と家族が納得する医療を行うことが大切であるとしています
2-4 |透析患者さんが終末期に直面する前にできること(私の意見)
・長年透析されている方は、どこかのタイミング全身の状態が悪くなってきて、血圧が下がり、透析継続が困難な時がいずれくる事が予想されます
・このような状態になったとき、透析はどこまで続けたいのか、最期は家で過ごしたいのか、病院へいくほうが安心かなど考えておくといいでしょう
(家で過ごすなら、在宅医療の先生が近くにいるか調べておくのも大切です)
・ご自身がどのように最期を迎えたいかの意思表示を、記録してご家族に渡しておくといいでしょう
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3-1 |腹膜透析とはどんな透析か
在宅でできる透析です。お腹にカテーテルという管を入れる手術を受け、ご自身の腹膜を使って体の毒素や水分を取り除く方法です
血液透析と比べた最大のメリット
- 自宅でできること
- 血圧の変動がない
- オーダーメイド医療
- 自由な時間が持てる
3-2 |本書から感じたこと 腹膜透析編
筆者は夫が亡くなってから、もっと苦痛なく亡くなる方法はなかったかと模索をしていくうちに腹膜透析を知り、色々な施設へ取材を重ねています。
印象的だったのは、東北の震災で苦労した経験から、大学を挙げて腹膜透析に取り組む姿勢の教授がおられ、教授自身が在宅で回られて診察をしていることには驚きました。
透析と言うとまだまだ血液透析が当たり前だと考える医師も多いのが現状です。腎代替療法の選択肢として、常に移植や腹膜透析を含め、本人やご家族に伝えていくことが、腎臓内科医としての指名だと改めてこの本を読んで感じました。
3-2 |私自身の臨床経験談 腹膜透析編
腹膜透析をしていた方に膵癌が見つかった方がいました。元気な間は自宅で腹膜透析をしておられ、最終的には入院をして亡くなられました。腹膜透析は最期まで続けられました。血圧が下がりにくいので、安全に行え、患者さんはとても穏やかに旅立たれました。
腹膜透析は終末期にも、体への負担は最小限であると経験をしました。
まとめ
- 「透析を止めた日」は透析をしている方や、透析をこれから必要とされている方は読むべき1冊です
- 腎代替療法には血液透析だけではなく、移植や腹膜透析の選択肢があります
- 将来移植を考えている方は、ドナー、レシピエントの方もともに体調管理をしっかり行なってください
- 透析の終末期医療は現在大きく変わり、患者さん主体で医療現場は動いています
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