「もし透析を回避できる治療法が現れたら……」
そんな希望に一歩近づく研究成果が、2025年6月に2つ続けて報告されました。
今回は、慢性腎臓病(CKD)と向き合う皆さんに向けて、国内外で注目されている最新の腎臓医療研究をご紹介します。
熊本大学:世界初「ミニチュア尿管」の作製に成功

まずご紹介したいのは、熊本大学が発表した画期的な研究成果です。
同大学の研究チームが、世界で初めて「尿管のミニチュア臓器(オルガノイド)」の作製に成功したのです。
尿管とは、腎臓で作られた尿を膀胱に運ぶ大切な“管”のことです。
わかりにくいと思うので、解剖図を載せます。
腎臓で尿が作られると、尿管を通って尿が通っていきます。

つまり腎臓だけを作っても、尿の出口がなければ機能しません。
今回、腎臓オルガノイドに加えて尿管まで再現できたことで、
「人工的に作られた腎臓が、実際に体の中で機能する未来」が現実味を帯びてきました。
どうやって作るの?
この尿管は、「iPS細胞」や「ES細胞」といった、どんな細胞にも変化できる“万能細胞”を用いて作られました。細胞を培養し、条件を整えることで、長さ0.2〜10ミリほどの小さな尿管が形成されたのです。
研究を主導した熊本大学の西中村教授はこう語っています。
「腎臓だけを移植しても、尿が出ていかなければ使えない。尿管とセットで作ることで、初めて“機能する人工腎臓”の可能性が見えてきた」
この発見は、腎臓病だけでなく尿路の病気や薬の開発にも大きく貢献すると期待されています。
課題は「大きさ」「形」「実用化」
とはいえ、すぐに私たちの治療に応用できるわけではありません。
- 実際の尿管は約30センチ。今回できたのはその数百分の一。
- 本来は長い筒状であるべきところ、今回のものは丸い形。
- 使用された細胞はマウスのもので、人間に使うにはiPS細胞からの作製が必要。
実用化には時間がかかりますが、「腎臓と尿管を人工的に作れる可能性がある」という事実は、透析の未来を大きく変えるかもしれません。
遺伝子編集された「豚の腎臓」で透析卒業

もう一つの明るいニュースは、アメリカ・マサチューセッツ総合病院から。
腎不全を患う66歳の男性に、遺伝子編集された「豚の腎臓」を移植する手術が成功。
なんと1週間で退院できるほどに回復したのです。
この移植に使われた腎臓は、豚の臓器が人間に拒絶されないように69箇所も遺伝子が編集されたもの。今回のケースは、アメリカで4例目の豚腎臓移植となりました。
これまでに成功した2例と合わせて「ドナー不足を補う新たな手段」として大きな期待が寄せられています。
透析からの解放へ
この男性は2年以上透析を受け、心臓発作や吐き気、倦怠感に苦しんでいたそうですが、移植後には「まるで新しいエンジンを手に入れたようだった」と語っています。
もちろん、この技術にも課題は残ります。
- すべての患者に使えるわけではない(2例は術後に亡くなっています)
- 費用や保険適用がまだ未定
- 長期的な安全性や持続性のデータが必要
それでも、透析が「最後の手段」ではなくなる未来が、確実に近づいていることは間違いありません。
希望は、今ここに芽生えている
透析を受けることに不安を抱える方は少なくありません。
現実として、透析は日常生活に制限がかかり、肉体的・精神的な負担も大きい治療です。
しかし今回紹介した研究は、その未来に新しい道を照らしてくれるものです。
- 人工的に“流れる腎臓”を作れるかもしれない
- 遺伝子編集で、動物の臓器が移植に使えるかもしれない
どちらも、すぐに私たちの医療現場に届くものではありませんが、「いつか透析を受けずにすむ日がくるかもしれない」という希望を私たちに与えてくれます。
だからこそ、「今」を大切に
未来の医療がどう進んでも、今の腎臓を守ることは変わらず大切です。
- 血圧管理や食事療法
- 水分バランスの調整
- 医師との定期的な相談
こうした日々の積み重ねが、よりよい未来への“土台”になります。
私たちの体は、科学の力と自分の努力の両方で守ることができる──
そんな時代が、少しずつ近づいています。
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